2018年2月11日日曜日

対ガン本の数々

狭い診察室でガンを宣告された時、なんとなく「へえ、ガンですか、ぼくが?」と医師に答えた。ぽっかり脳のどこかに空白ができたことは事実でしょう。近く死ぬのかな。自宅に戻って、ガンについて書かれた本を探してみた。

本棚にある柳原和子の『がん患者学』(晶文社刊)、『がん生還者たち』(中央公論新社刊)、亡くなる直前に再再発後の病床日記とも言える『百万回の永訣』(中公文庫)。それに柳田邦男の『がん回廊の朝』(講談社刊)。

初めて診察を受ける前日1月23日、大阪で自由大学というNPOを主宰しているジャーナリスト・池田知隆が「これあげるよ」。ポンとくれた江国滋の『おい癌め 酌み交わさうぜ 秋の酒』(新潮社刊)。題名に惹かれてすぐ読んでみたが、なんとも真っ当な、真っ当すぎるガン病床日記。食道を切除して腸に繋ぎ、回復を待つ苦しい闘病の日々。江国は絶妙な文章を読ませるエッセイスト、というのがぼくの認識だっから、あまりにもまっすぐな闘病記はまともに読んでいて息苦しくなった。せめて得意の俳句が散りばめられているのが救いか。ぼくも一句。

オレもガン 仲間になるぜ 江國さん

駆け出し時代の事件記者の同僚、Y君が貸してくれたのが立花隆の『がん 生と死の謎に挑む』(文藝春秋刊)、ドキュメント番組「NHKスペシャル」の取材、撮影を基に書き上げたガン読本だが、もっとも詳しく正確で説得力がある。ガン神話を暴き、抗ガン剤の是非を論じ、ガンとは何かを問う秀逸の書といえる。

立花はもともと東大を卒業して文藝春秋の編集者となった。退社して東大に戻り哲学を勉強。新宿・花園街でバーをやっていたという。変な奴が多いフリージャーナリストの中でも変わり種だった。『田中角栄の研究~その金脈と人脈』で注目を浴び、『中核VS核マル』で新左翼に迫った。髪もじゃもじゃの丸顔、文章はち密で鋭い。本名、橘隆志、1940年5月28日長崎県生まれ、ぼくより一つ上、76歳。”知の巨人”と呼ばれる。

『脳死』という分厚い本では、時代の推移によって変化する死の概念について見極めようとしている。立花本人とは45年ほど前、角栄研究で話題になったとき、国会担当の社会部(政治部じゃあない)記者との昼食勉強会で会ったことがある。

手元には他に戸塚洋二著、立花隆編『がんと闘った科学者の記録』(文藝春秋刊)、植松稔『抗がん剤治療のうそ』(ワニブックス刊)など知人友人が送ってくれたガンの本がズラリ。他に国立がん研究センター内科レジデント編『がん診療マニュアル』(医学書院刊)拾い読みしているが、立花本を凌ぐのは未だ無い。

次はガン患者だった友人のジャーナリスト・柳原和子について書こうと思う。ノンフィクション作家・後藤正治と3人仲良しで、親しみ込めてぼくらは「カズコ」と呼んでいた。カズコを想い出すとちょっと涙が滲み出てくる。短い付き合いで彼女は逝ってしまった。
「生」に執着するナイーヴで可愛い女だった。

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